「死をみつめて」を読んでみた

中学生までに読んでおきたい哲学と書いてあるから、手に取ってみた。
中学生はとっくに過ぎているけれど…。

こないだ読んだ「死を考える」に続いて、
また死をテーマにした本を読むのは、
少し重苦しいような気もしたが、
産休中という、こんな時にしか恐らく読まないだろうなと思ったので、選んでみた。

この本は、こないだの本みたいに、
1人の人が死についてどう思うかを、
過去の賢人たちの考察を紹介しながら書き綴る形式
ではなく、色んな人が経験したり考えたりした死を、章ごとに紹介するというスタイルだった。

中でも印象的だったものを紹介したい。

1つ目は、向田邦子氏の章だ。
こちらは、彼女が実体験として経験した周りの人の
死が描かれている。
身体障害を持った男の突然の自殺や、弟の同級生の母親の死、喫茶店店員の殺人事件…。
どれも読み手をドキッとさせるような、怖さを与える死だった。
これはすべて、小説の世界ではない。
現実に起こって、しかも身近に起こった死なのだ。

そういえば、私は身近に死を感じたことがない。
経験として、身近で亡くなったのは祖母だけで、
それも病院で亡くなったから、かなり距離の遠い死だった。
恐怖心もなければ、現実味も残念ながら感じられなかった…。
その場に居合わせた訳でもなかった。

なんとも皮肉なことに、私の場合その祖母の死よりも、テレビなんかで報道される殺人事件の方が、よっぽど恐怖心や切迫感を感じさせられるのだ。
また、被害者の気持ちやその時の状況などを、
無意識のうちに想像してしまう。

それでいうと女性の方が、直接自分に関係のない死などの不幸でも、まるで自分のことのようにショックを受けることがあるなぁと思う。
二次体験というやつか…。
男性は、どちらかというと、自分のこととしてはニュースの死の報道は受け取らないんじゃないかな…。かなり割り切って認識できているように感じる。
これはあくまで私の見解だけれども、
周りの男性を見ていても、以前気になった事件について調べた時にもそのように感じた。
端的に、女性の方が圧倒的に被害者になる場合が多いからというのが関係しているようにも思えるが…。

向田氏のように、幼少期から大人にかけて、
身近で死を知る機会が何度もあれば、
誰だって死について考えるようになるだろうと思う。
そういう経験をしていない自分にとっては、
このような具体的な経験談を読むこと自体が、
とても刺激になった。



もう一つ、松下竜一氏の章も、かなり印象的だった。
こちらは、読んでいて涙が暫く止まらなかった。

話を要約すると、
若い頃に病死した友人から、何年も後になってプレゼントが届いたという話だ。
もう死んでいるはずなのに、その友人は、
死ぬ前に自分の父親に最後のお願いと言って、
松下氏の子供が3歳になる頃に絵本を送るように
頼んだのだ。
それが届いた時の驚きは、言葉になる前に涙となって、松下氏の頰を流れた。

生きたいのに生きられない、
そんな苦しみに喘いでいる友人を持つことは、
残った者に対して、生きることがどれほど奇跡的で、
幸せなことかを教えてくれる。

昔は病気や貧困なんかが今よりも露骨にあったから、
クラスメイトや友達が命を失うという経験が、
今よりも頻繁にあったのだろう。
それが決していい事とは言えないが、
死に対する恐怖心や、死を見つめる機会が否応無しにあったということは、事実だ。

それが、今は殆どない。
だからこそ逆に、死がふわふわぼんやりとしたものになり、死を見つめることなしに、生を簡単にというか、よく考えることなしに捨ててしまう人がいるように感じた。

勿論過去にも、死を悲観的には見ずに、
辛い世の中から解放してくれる救いの場として
考えられていた時代や国もあるらしいから、
今だけある異常事態ではないのかもしれないけれど…。


最後に、岸本英夫氏の章も印象的だった。
こちらは何が印象的だったかと言うと、
彼が実際にガンになって死と隣り合わせの状況に
なったときに、結局行き着いた考えが、
よく生きるということだったという話だ。

これはまさしく、以前読んだ「死を考える」の
本に紹介されていた数々の賢人の意見と合致している。
勿論ソクラテス孔子などの教えは有名すぎるから、
その影響を受けたということも言えるかもしれないが、
しかし現実にそのような死と隣接した状況を経験した上で自分の中で落とし込めた死あるいは生が、
よく生きるという賢人の教えと一致していることは、
かなり説得力のある話なのではないだろうか。
つまり、賢人の言っているよく生きるということは、
何も机上の空論ではなく、現実としての生においても通用していることなのではないだろうか…?

この、よく生きるということが自分の中で具体的に
どういうことなのかは、これからじっくり考えていく必要があるが…。